関西百名山・近畿百名山 ともに、87座までこぎつけてから、残るは遠方、また単身赴任もあり、停滞が長くなったが、青春18切符の有効期間であることを知り、鈍行の気楽な旅を目指すことにした。
切付は、以前谷川岳のとき利用した金券ショップでの貸し出しはなかったが、安く売っていて残りは高価に売却できることが分かったので購入した。
以前、紀南の烏帽子山は本切符の利用での日帰りが可能なことを調べていたので、確認すると今でも大丈夫なことが分かり、実行することにする。費用も往復JR6520円が2300円程度(売却値段次第)で済む。何より運転の疲れもない。確かに片道4時間半の旅は大変だが、本も読めるし、眠くなれば眠ればいい。
ただ妻に早朝JR和歌山駅まで送ってもらう必要があるが、快く引き受けてくれた。一人であることを盛んに心配してもらい恐縮であったが。
途中コンビ二で好物の稲荷寿司や遅くなるので夕食代わりの弁当を買い込む。
早朝にもかかわらず、新しいトイレ付の2両の車両には、若い子を中心に結構乗っていた。今日は寒の戻りともいえる気候だが、南の御坊駅周辺は、うっすら雪が積もっていた。
海岸の風景を楽しみつつ、次女から薦められた「ビタミンF」を読む。南に行くほど、青空が広がり、陽射しが明るくなる。
たくさん乗っていた弓道の学生は紀伊田辺の手前で下りた。大会でもあるのだろう。
紀伊田辺から先は古い車両を改造した古いワンマンカーで、乗車・降車は2両の1両めのみ開くが、乗車口から降車する者も多くキセルが多そうであった。新宮まで3時間近く走るのにトイレのない車両だが、ところどころ対向や特急待ちの間に駅のトイレを利用するようアナウンスがある。
周参見からは、海岸風景が美しく、串本では橋杭岩も見 えた。紀伊田原付近は特に美しく思えた。JR和歌山駅から49駅め、那智駅に定刻に降り立つ。バスの連絡はよく、すぐに到着したが、世界遺産の効果か満席である。
熊野古道でも一番ポスターに使われる大門坂だけでも歩こうと思うのか、大門坂バス停で結構降りた。観光客とは方向が違う。私の方は少し車道を那智の滝方向に進むと、右手に新しいトイレと駐車場があり、駐車場内の階段を下りる(駐車場手前の道または階段を下りてもよい)。那智川を渡る橋があり、それを渡ると、左手に寺があり、花桃が美しく咲いていた。
陰陽の滝までは遊歩道のような道である。陰陽の滝は、烏帽子山への道を分け、取水口の方へ進とすぐにある。那智の48滝の37番目だそうだ。解説通りの形だ。
元の分岐に戻ると新宮山野の会NO.2の案内標識があった。ここには山頂まで2.6kmの表示があった。10分強でトタン小屋跡があり、すぐにNO.3の標識があり、左岸へ渡渉する。ここからは台風の爪跡が残り、少し先で木橋を渡る。
その先で尾根コース分岐があり、NO.6の標識で右岸に渡り、NO.10で左岸へ渡る。NO.14の標識から先は、急で喘ぎながら登る。ようやくたどりついた小スペースからは、左に巻くように進むと、松尾の滝に着く。松尾の滝は40mもある一枚岩を滑り落ちるような滝である。しゃりばて気味なので、稲荷寿司を食べる。
ここからは、右の支流沿いを進むが、テープを丹念にひろわないと分かりにくい。夏だと滝前の急登ともにヤブ気味の道はうっとうしいであろう。
思ったより時間がかかり林道に出る。左は那智の滝方向、右に進むとすぐに終点で左に取り付く。標識には山頂まで30分とあった。一上りで帽子岩が見えた。

単独の上、誰にも会わないので慎重に進と、立石コースとの分岐に出た。悪路との注意書きがあった。ここからは最後の急登で、帽子岩の右のルートを木の根をつかみ登る。
帽子岩に登る元気はなく、先ずは山頂に進む。帽子岩から数分で一等三角点の山頂についた。予想に反し、誰もいない。岩崎元郎氏が選んだ新日本百名山に選ばれたが、南紀の山は遠く、踏み入る人は少ないようだ。
北北東に山、南南東に海が間近に見えた。湯を沸かし、チキンラーメンを食べる。山頂からは 高田方 面、大杭峠方面に伸びる。大杭峠の尾根コースに向うと大岩があり、右にテープが見えたので下ると危険で緊張する。これはおかしいと思い戻ると、左の無造作に渡された古木を渡ると、岩にロープがたらされ、腕力だけで登る。
ここからはテープを頼りに慎重に下る。見失うと冷静に見渡すと必ずテープはあった。40分ほど歩いた鞍部には大杭峠の方向をさす標識があり安堵する。古い囲炉裏のデータではここから下る正規ルートでないテープがあったが今はない。
データ通り一上りで大杭峠と陰陽の滝分岐に出た。ここからの尾根ルートは、歩きやすくほっとする。完全に足に来ていて、渡渉のために持ってきた久しぶりのダブルストックに頼る。
沢ルートに合流し、ほっとした油断からかNO.3の標識所での渡渉を忘れ、おかしいなと思い対岸を見るとトタン小屋跡が見え、戻り渡渉する。NO.2でも次のルートが分かりにくかった。正解は小沢を渡る。
迷ったときは慎重な判断が必要だ。バスの時間を確かめると微妙であったが、何とか間に合いそうなので道が安全になつてからは飛ばして最後は走る。
案の定、車道に出ると後からバスが来た。走って飛び乗る。今回の旅は山より、ここからがよかった。先ず駅に併設された丹敷の湯に入る。湯船の向こうに明るい海の展望が広がるが、入浴者も私と二人だけ。
満足後、近くの酒屋で評判のドラフトワンを手に入れ、そぼろ鶏弁当とともに、那智駅のホームで海を眺めつつ 時間をつぶす。駅には一人だけ。眼前に広がる海水浴場も誰もいない。
陽射しが明るい。時間が静かに流れる。まさに至福の時だ。安い酒と弁当で何故こんなに幸せなのか。こんな時間の過ごし方はいつ以来だろう。青春18切符にふさわしい旅となった。
帰りの電車でも日本酒をちびりちびり、小説を読むと、4時間半は短かった。ビタミンFはさすが直木賞受賞作おもしろかった。もう一冊の永六輔の夫と妻は一度読んだことに気づくが再読してしまった。淡谷のり子さんの生き方に感心する。
迎えに来てくれた妻に感謝し、評判の和歌山ラーメンの井出商店に立ち寄る。相変わらずたくさんのお客さんがいた。
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