比良 奥の深谷 |
【データ】
【メンバー】 |
山登りを趣味に持ち、本当に良かったと思っているが、山の本を通して、どうしても行ってみたくなったのが、笛吹川と赤木沢である。笛吹川は田部重治の「笛吹川を遡る」(新編「山と渓谷」岩波文庫)を読んでのことだが、以来、遡行記録や写真を雑誌やネットで見るにつけ、その二つだけは行ってみたいという思いが強くなった。しかし、初級の沢といえ、素人には無理で、何年か前、私を山に導いてくれたT氏の強いお誘いに従うべきだとも悔やんでいた。 そんなとき、昨年の石鎚山登山で親しくしていただきバリエーションルーとを案内してくれたOご夫妻からお誘いを受け、お二人の技量・経験はもとより、素人には無理をさせない姿勢に強い信頼感を感じ、やってみようという気になった。お二人のお人柄と若々しい生き方にも共鳴し、尊敬するところ大であり、お二人に出会い、このようなお誘いを受けたのは、山の神からのプレゼントのような気もした。ただ、私は、運動神経もバランスもいいとはいえないので、相当ご迷惑をおかけするのではという点が心配であった。 少し前に和歌山に帰った際、犬の散歩ついでにご夫妻から必要なものを教えてもらい、その後、和歌山にゴルフに行った帰り、コージツに寄り、親しい店長に相談にのってもらい。分からない点は、店からわざわざOさんに電話し、教えてもらい、ヘルメット・ハーネス・8環・安全環付カラビナ等買い揃えた。 その後、家族が心配するので、こっそり置いていたのに見つかり、妻と娘から、相当のクレームがあったが、おしきった。さらに、O夫人が山岳保険をアドバイスくださり、それも8月から適用にぎりぎり間に合った。 O夫妻は和歌山で懸垂下降の練習もとおっしゃってくれたが、その日は都合がつかず、ぶっつけ本番となり、ご心配やご迷惑をおかけすることが心配であった。 結局、8月3日に比良の奥の深谷が初沢登り経験となった。ここは、そう難しくはないが、美しい沢とのことで楽しみだ。O夫妻と同じ山岳会のSさん(女性)は、和歌山からなので、湖西線の堅田駅で、ピックアップしてもらうことにする。 なるべく早い時間の方がいいので、いろいろ調べたが、最も早くつくのは、8時22分で、生駒からは、距離は60kmほどだか、乗り継ぎの待ち時間等かかり、2時間強かかる。 バスはさすがに乗客は少ないが、近鉄奈良線・京都線は結構混んでいた。しかし、JR湖西線も普通だからか、全て座れたのはラッキーであった。社内で妻のつくってくれたおにぎりを食べたのは、マナーとしてどうか分からないが。朝も昼も妻の弁当なのは、先週は、妻とドライブで、浄瑠璃寺と岩船寺を見学し(非常に風情のあるいい寺だった)、今週は、イタ飯を食べに出かける努力と、夜はLDKにいながらにして、生駒の花火大会を見学できるというラッキーがあったからか(^_^;) 堅田駅を下りると、モンベルの帽子をかぶっていたためか、モンベルのスタッフにモンベルのツアー客と間違えられた。O夫妻の車は、渋滞があったとのことだが、少しの遅れで到着された。 坊村の取り付きのトイレを使った後、林道をわずかに走ると、すぐに一般車立ち入り禁止の鎖がしてあった。手前には、広場があったが、今は材木置き場となり、車は置けないようだ。路肩に止め、出発準備をする。結構、車が止まっていて、若い男女の団体が沢支度で出発していった。 ここは、一般登山道も近くを通っているが、沢屋のメッカという感じだ。牛コバまで、林道をよもやま話をしながら(雑談の主は私だが(^_^;))、30分ほど歩く。牛コバの数分手前の橋の袂から入渓する。河原で準備をし、全くの初心者の私は、Oさんから、ハーネスや安全環の使い方等逐次教わる。 私の今日のスタイルは、上は、水泳用の長袖の速乾性のシャツ、下は、ユニクロが慶応大学と開発したという、ワコールのCW−Xもどきのタイツに速乾性の半パン。O夫妻から沢屋みたいと言ってもらい、かっこだけだなぁと自戒する。それでも記念の日なので、O夫人(以後、愛称の紫さん)に出発前の記念の一枚を撮ってもらい、素直に喜ぶ。 Oさんは、安全のために、重さ3kgもあるという50mザイルまで持参くださるという。本当にありがたい。 ここからが本番なのだが、実はいつもと違い時系列の記録というわけにはいかない。何せ安全に進むことに精一杯だったので、遡行図を見ながら、記憶をたどるのみだ。 最初に待っていたのは泳ぎ。一歳年上のお医者さんだというSさんが是非ともとおっしゃる。どんな感じかなと心配するも、Oさんが先に渡り、お助けひもをなげてくれ、泳ぎというより引っ張ってもらうので、難しくはなかったが、案の定、最後、左ひざを岩にぶつけて洗礼を受ける(いくつかぶつけたりするよと聞いていたが、そのとおりで風呂で確認するときっちり数箇所赤く腫れて傷があった)。泳ぎはこの後も経験させてもらう。その方が早い場面も多い。2回目は、結構楽しくできた。もちろん引っ張ってもらったからだが。 次の挑戦は傾斜スラブのへつりだった。左へ滑れば深い淵だが、挑戦するように勧められたので、やってみたら最後の一歩で滑り、どぼん。でも深いところは過ぎていたので、難は逃れた。この最初の挑戦は、紫さんが動画におさめ、ミクシィで公開中である。どぼんもさることながら、へっぴり腰なのがよく分かり、勉強になった(^^ゞ 最初の滝、6Mの大きな釜のある滝では愛知の熱田の4人パーティが泳いで取りつき、直登をするようだが、我々は左岸を登る。(下の写真) ![]() ![]() 歩きながらも、靴は縦においた方が滑らない。強い水流はあまり足をあげない、へつりは意外と沢の中の方がいい足場がある等逐次、紫さんが指導してくれる。自分の好きなところを歩いたらいいと言うので、そうしてみる。しかし、思案したところは、紫さんの選択とは違うところが多く、勉強になった。 ![]() そして、2段8mの滝。いよいよザイルを使っての直登。Oさんや愛知の熱田から来たというグループはザイルなしだが(彼らは、淵を泳いで直登したり、温泉みたいにつかって滝の前で写真を撮ったり子供のように楽しんでいた)、万一のために出してくれるのだ。折角買ったハーネスや安全環付カラビナを使わないとと言う。準備は大変で20分もかかる大仕事をOさんがしてくださった。でもこのおかげで安心して登れた感が強く、なしだとこの高さではびびっていただろう。(下の写真) ![]() ![]() そして40mの滝手前では、どうってことのない岩で、右足のフリクションがきかず、ずるっと滑り落ちる。危険な箇所ではないが、そんなに甘いものではないことを思い知らされる。 40m滝の手前で昼食とする。さほど進んではいないが、出発してから2時間以上経ち、お腹も空いていた。妻のおにぎりとおかずで、一息入れる。ビールを持ってこようか悩んだが、先を思うとそれどころではなかった。 ![]() ![]() 40m滝(左上の写真)の上部にも難所があり、ハーケンにお助けひもをつなぎ、うまくOさんが進んだ後、そのひもにより、引き上げられるようにしてようやく突破できた。今日はあまり巻かずにいっているので、難度があがっているとのことだが。 ![]() ![]() 9mの美瀑(左上の写真)で4人の写真撮ってもらうと、その後の右岸の高巻きは、木の根っこをつかんで強引に攀じ登るなど、結構難しく危なかったので、素人ではできない世界であることを思い知る。また、高巻きもできる限り上にいかないようにしないと下るのが難しいと教えてくださる。ここの滝の水溜りで鹿の白骨があった。自然は厳しい。 ![]() そして2段6mのある斜瀑のゴルジュ(左の写真)。何故か紫さんが果敢に挑戦し、夫妻で残置ハーケンにロープを通し、確保できるようにして下さる。それでも最後のところで、またもや右足のフリクションがきかず苦労し怖い思いもしたので、ここまでしてもらってもかとがっくりし、経験なのか素質なのかと私の悩みはつきない。ここを巻かずにこだわったのは、紫さんは、前回は巻いたのでという。 ![]() でもいろいろ経験させてもらって思うには、巻くから安全というものでもなく(ましてや大峰や大台は踏み跡も薄いという)、O夫妻が的確に最善の策を選択し、安全確保してくれるからだと感心感謝のみであった。(右の写真) そして最後の休憩時、何匹も出会ったひきがえるに見送られ、惜しむかのように美しい滝(左下の写真)や小なめ滝をめでると、一般道案内のロープが沢を横切り、本日の遡行終了地点であった。 沢道具をはずす前に、記念にと紫さんが写真をとってくれた(右下の写真)。以上のように未熟だけでなく、センスもあるとは思えない初体験の沢であったが、それでも沢は本当に美しく(奥の深谷は日本百名渓とのこと)、沢を愛する人が多いのもうなづけた。本当に滝、なめ、淵全て美しく、滝も観光地の名瀑よりはるかに美しく感じた。そして何より涼しく、水も500mlを一本飲んだだけであった(冷や汗はかいたはずだが(^^ゞ)。 ![]() ![]() 牛コバまでの道も、最初は、気をつけないと左は谷という道であったが、楽しく雑談をしながら下る。紫さんがSさんは山好きだ、自分は本当に山が好きなのかなぁとおっしゃるのが印象的で、また、Oさんの山はどの山に登るかより、どう登るかにこだわるというのもOさんらしいなぁと思った。また、岳人の6月号に載ったO夫妻の北鎌尾根の記録は年間賞もあるとの話で紫さんが楽しみにしていると聞き、私はすばらしい内容と文章と思っているので、是非、入賞されることを願う。 ところで、私も一つの目標として近畿・関西百名山を終え、日本百名山もゴールが少し見えてきたが、その達成より、その山の最も輝く季節に、また良い仲間と、できれば思い出に残るルートで登りたいと思うことが多くなった。思い出に残るルートを一番実行されている一人は、「山楽日誌」のAさんだと思う。紫さんも目指しているとおっしゃっていたが、Aさんの線でつなぐ登山はあこがれだ。 牛コバに出てからは、林道を30分ぐらい余韻を楽しみつつ歩く。一般車通行禁止でも乗り入れている子供連れの車があったが、ゲートを踏みつけてはよろしくないと思う。 沢登の後は、入浴は必須とのことで、Oさんの案内で逆方向だが、湖西道路を志賀方面に向かい、終点から、「比良とぴあ」を目指す。途中、トラックが橋の欄干に衝突し炎上していたのには驚いた。温泉は混雑して入場制限し15分待ちだが、その分、芋洗い状態でなく、露天風呂も楽しめた。 湯上り後、Oさんから「上の廊下」の思い出話をお聞きする。テレビで何回か見て大変難しい感がしたが、その通りのとのことで、引き込まれた。Oさんは、私のようにくだらない話をぺらぺらするのでなく、重みがあり、実に雰囲気がある。一方、奥さんは明るい楽しい話をしてくださる。Sさんも紫さんの手紙からということだが、全てに積極的でありながらも押し付けない感じが最高で、理想の夫婦だ。 私は比良駅で下ろしてもらうも、乗り継ぎが悪く、2時間以上かかった。O夫妻は大渋滞で自宅着は22時だったとのことだ。私の遡行中の心配やらでお疲れだったのにと恐縮仕切りである。 私と言えば、翌日まで、違う能を使ったからか別世界にいるみたいで不思議な気持ちであった。 |